「サンプルは喜んで受け取ってもらえたのに、注文が来ない」
「美味しいと言ってもらえたのに、メニューに載らない」
食品・水産・農産の生産者や卸の現場で、新規の飲食店開拓に取り組む方から、いちばん多く聞くのがこの声です。商品には自信がある。アポも取れている。試食まで届いている。それなのに、受注だけが動かない。
先に結論をお伝えします。飲食店への卸先開拓で勝敗を分けるのは、商品の味でも、架電の量でもありません。「誰に届けるか」というリストの定義です。
本記事は、営業代行を生業とする当社が、自社商材である養殖魚(ヒレナマズ)を飲食店に売るために自ら架電し、2ヶ月半で208社にアプローチした実録です。アポイントは33件取れました。それでも受注はしばらくゼロでした。どこで詰まり、何を変えて受注に転じたのか。数字と、実際にいただいた断り文句をそのまま公開しながら解説します。
この記事の要点
- 飲食店開拓の障壁は「入口」ではなく「その先」にある:アポ率は約16%と決して悪くない。詰まるのは試食から採用までの区間です。
- 断り文句は市場調査の一次データ:「美味しいが使うには至らない」の一文に、負けている土俵が全部書かれています。
- 受注した店には共通項が1つだけあった:需要が無かったのではなく、供給が消えていた層でした。
- リストは属性ではなく「経験・状態」で切る:業種やエリアではなく、その食材を扱った経験があるかどうかで切り直した瞬間に、受注が動き始めました。
I. 飲食店への「卸先開拓」とは?──BtoB営業の中でも特殊な3つの前提

まず前提を揃えます。飲食店向けの卸先開拓とは、食材・酒類・資材などを製造または仕入れる企業が、飲食店を新しい取引先として獲得する法人営業を指します。一般的なBtoB営業と同じに見えて、構造が3点だけ決定的に違います。
前提1:決裁者は店主・料理長で、話せる時間帯が極端に狭い
多くの飲食店では、仕入れの決定権は店主か料理長が持っています。組織の階層は浅く、決裁は速い。その代わり、彼らが電話に出られるのは仕込みと営業の合間、おおむね14時から16時に限られます。中間の休憩時間を外すと、そもそも会話が成立しません。当社の記録でも、架電した208社のうち34社が「責任者離席」、45社が呼出音のみで終わっています。約38%は、断られたのではなく会えていないのです。
前提2:新規採用は常に「置き換え」である
飲食店の仕入れ枠は有限です。新しい食材を1つ入れるということは、既存の取引先から1つ外すということ。つまり営業側は、ゼロからの需要創出ではなく、すでに機能している取引を上回る理由を提示する戦いを強いられます。「美味しい」は、置き換えの理由としては弱すぎます。
前提3:判断軸は味ではなく、原価・歩留まり・オペレーション
料理人が最終的に見るのは、1皿あたりの原価、可食部の歩留まり、そして「今の厨房の人員で回るか」です。ここを外した提案は、味覚で好評でも採用されません。
POINT:飲食店開拓で「アポは取れるのに受注しない」場合、原因はスクリプトではなく、ほぼリストの定義にあります。
II. 実録:自社商材で208社に架電した2ヶ月半の記録

当社は営業代行会社です。HR・広告・自治体の3領域で、これまで200商材以上の営業を支援してきました。同時に、代表の田中が水産卸のトップセールスと京都・先斗町の料理人という経歴を持つことから、まだ知られていない養殖魚を飲食店に届ける自社事業も運営しています。
つまりこの案件は、リスト作成から架電、試食後の追客、失注理由まで、すべてを自社で握った状態の記録です。クライアント案件では表に出せない部分まで、包み隠さず出します。
架電実績(2026年5月14日〜7月24日/社数ベース)
| 項目 | 件数 |
|---|---|
| 作成したリスト総数 | 5,547件(15カテゴリ) |
| 実際に架電した社数 | 208社 |
| アポイント | 33件 |
| 架電アポ率 | 約16% |
| 見込(継続追客) | 16件 |
| 資料送付 | 9件 |
| お断り(受付・責任者) | 61件 |
| 責任者離席・呼出音のみ | 79件 |
リストは食べログ経由の海鮮業態760件、アジア・エスニック533件、一休掲載レストラン438件、ホテル194件、水族館・レジャー施設260件、回転寿司48件などで構成しました。
数字だけ見れば、アポ率16%は法人営業として上出来の部類です。「めちゃめちゃ関心がある」と言ってくださった京都の店長もいれば、大手回転寿司チェーンの商品部からサンプル希望の連絡も入りました。過去にナマズを使ったメニューを出していた博物館併設レストランからは、1kgの発注意向まで出ています。
それでも、受注はしばらくゼロでした。
III. 試食まで届いて断られた「4つの本当の理由」

ここからが本題です。サンプルを送り、実際に調理して食べていただいた上での失注理由を、追客記録からそのまま並べます。BtoB営業において、この定性情報こそが最も価値の高い一次データです。
理由1:刺身の物差しで比較される
「美味しいが使うには至らない。刺身用でレベルが違う、という魚を探してきてほしい」
「脂の量が違う。マグロ、カンパチ、タイは味とコスパがぶれないのがいい」
海鮮居酒屋や鮨店に持ち込むと、天然の鯛やマグロと同じ土俵に上げられます。この物差しで勝てる魚は、ほとんど存在しません。負けていたのは味ではなく、比較される土俵でした。
理由2:価格が既存魚と同水準なら、替える理由がない
「同じ1,300円ならタイを使うので」
大手回転寿司チェーンからの回答です。置き換えの営業である以上、同価格帯は「同等」ではなく「不要」を意味します。
理由3:厨房のオペレーションに合わない
「美味しいが、スライスされた状態で納品してもらわないと回らない。大勢のアルバイトで運営しているので」
「加工品でないと難しい」
レジャー施設や大型店では、味以前に納品形態で落ちます。フィレでは足りず、ポーションや半調理品が求められる。商品力の問題ではなく、商品形態の問題です。
理由4:珍しさが、そのまま risk として扱われる
「うちのお客さんは頼まないと思う」
「使いづらいかなあ」
珍しい食材は、話題性であると同時に在庫リスクです。一度も出たことのないメニューを品書きに載せる判断は、店にとって小さくない賭けになります。
POINT:断り文句は「NG」ではなく「情報」です。当社が失注理由を一言一句そのまま記録に残すのは、その積み重ねが次のターゲットリストの設計図になるからです。
IV. 転換点:受注した3件に共通していた「たった1つの条件」
100件を超える架電記録を並べ直したとき、前向きな反応を返してくださった店に、はっきりした共通項が浮かびました。
- 「10年ほど前まではナマズのメニューを出していた。仕入れられなくなって、以来やめている」(博物館併設レストラン)
- 「以前その産地のナマズを月5kgほど使っていた。美味しかったが、生産者が事業をやめてしまった」(東京・高田馬場のジビエ業態)
- 「ナマズは2社から仕入れていたが、どちらも生産を終了した」(和歌山・新宮の料理店)
- 「すでに使っている。ところで、なぜフィレだとそんなに高いの?」(京都・木屋町の和食店)
共通していたのは、その食材を過去に扱った経験があり、供給が途絶えて仕入れ先を失っていたという一点です。
この層には、説得が一切要りませんでした。味の説明も、珍しさの訴求も不要。「取り扱っています」と伝えた瞬間に商談が前に進む。実際、初回の受注はここから生まれ、同じ切り口で作り直したリストから続けて受注が積み上がりました。
需要が無かったのではありません。需要はあったまま、供給だけが消えていたのです。
そして重要なのは、この層が最初の5,547件のリストの中にほとんど含まれていなかったという事実です。当初のリストは「海鮮を扱う飲食店」という属性で切っていました。しかし本当に必要だったのは、「その食材を扱った経験がある店」という状態で切ったリストでした。
V. 横展開できる「リスト再構築の5ステップ」

ここからは、業種を問わず使える形に一般化します。当社がクライアント案件でも実行している、ABM型(アカウント・ベースド・マーケティング=不特定多数に大量架電せず、狙うべき企業を絞り込んで深く働きかける手法)のリスト再構築プロセスです。
ステップ1:最初の1件の受注から、仮説を抜き取る
受注は結果であると同時に、最良のサンプルです。「なぜこの店は買ったのか」を、担当者の言葉のレベルまで分解します。当社ではこれを、次はどの切り口を当たるべきかを粘り強く探る「探偵のような姿勢」と呼んでいます。
ステップ2:共通項を、属性ではなく「経験・状態」で言語化する
業種、エリア、席数、客単価。こうした属性軸は誰でも作れるぶん、差がつきません。効くのは「過去に◯◯を扱っていた」「今△△が手に入らなくて困っている」という状態軸です。今回であれば、その食材の取り扱い経験があり、かつ供給が止まっている店が答えでした。
ステップ3:検索軸を変えてリストを組み直す
状態軸は、グルメサイトのジャンル検索では拾えません。過去のメニュー表記、産地名の記載、専門的な認定制度の加盟店一覧など、探す場所そのものを変える必要があります。今回は、特定の魚の処理技術を認定する制度の公認店リストが有効な母集団になりました。ここが、単純なリスト購入と、ターゲットを設計するBDR型(Business Development Representative=戦略的に狙う企業を特定してアプローチする役割)アプローチの分かれ目です。
ステップ4:スクリプトを「説得」から「確認」に切り替える
状態軸で切ったリストに対しては、商品説明は不要になります。必要なのは確認の一言です。
- 説得型:「珍しい養殖魚です。刺身でも焼いても美味しく召し上がれます」
- 確認型:「以前◯◯を扱われていたと伺いました。今、仕入れ先はお決まりですか」
同じ商品でも、後者は会話の入口からまったく別物になります。
ステップ5:断り文句を、次のリスト定義に還流させる
「刺身の土俵では勝てない」という失注情報は、裏返せば「刺身以外で勝負している業態を当たれ」という指示です。今回、ジビエ業態や珍しい食材を売りにする店が有力なターゲットとして浮上したのは、この還流によるものでした。失注の理由を集めることは、次のリストを作ることと同義です。
POINT:リストは一度作って終わりではありません。受注1件からヒントを取り、共通項を抜き、リスト化し、また回す。このサイクルの速度が、そのまま新規開拓のスピードになります。
VI. なぜ5,547件を全部かけないのか──「量より質」の実務的な理由

当社のスローガンは「量より質」です。精神論ではなく、コスト構造の話としてご説明します。
5,547件のリストを頭から全件架電すると、単純計算で数百時間の稼働が必要になります。仮にアポ率16%を維持できたとしても、その多くは今回のように試食で止まる層です。当たらないリストに対して丁寧に架電することは、最も高くつく失敗です。当社が「リストの9割は砂漠」と申し上げるのは、この意味においてです。
一方で、闇雲に件数を絞ればよいわけでもありません。実務上、押さえるべきポイントが2つあります。
1. 早すぎる見切りをしない
アポイントが取れるのは、平均して3〜5回目以降のコールです。なかには1年をかけ、25回目でようやくキーマンに繋がり大型受注に至った例もあります。1〜2回で「NGリスト」に落とす運用は、機会損失を量産します。今回の記録でも、責任者に会えないまま終わっている社が79社ありました。ここは失注ではなく、単なる未接触です。
2. 受付ブロックを構造的に回避する
飲食店では店主直通が多いものの、チェーン本部や大手企業を狙う場合は代表番号での受付ブロックが立ちはだかります。当社は20万社150万部署におよぶ独自の直通番号データベースを保有し、決裁者へダイレクトにリーチすることで、商談接続率を最大2倍に引き上げています。リストの質とは、狙う企業の選定精度と、その企業の中で誰に繋がるかの精度、その両方を指します。
VII. 卸先開拓を外部に任せるときの、3つのチェックポイント
自社に営業リソースがなく、代行を検討される場合の見極め方をまとめます。
チェック1:コール数の消化が目的になっていないか
「月1,000コール」を成果物とする、いわゆるチケット消化型の運用では、リストは検証されないまま消費されます。成果物として提示されるべきは、コール数ではなく、次に当たるべきターゲットの仮説です。
チェック2:定性情報が返ってくるか
今回の記事の価値は、すべて断り文句という定性情報から生まれています。日次のコール数・アポ数・アポ率だけでなく、商談議事録や音声ログまで共有されるか。当社は日次報告、週次の定例MTG、全コールの音声ログ共有を標準としています。固定報酬型を基盤としているからこそ、成果に繋がらなかった会話も含めて、すべてお出しできます。
チェック3:3ヶ月で勝ち筋を作る設計になっているか
当社は最低3ヶ月からのご契約をお願いしています。1ヶ月目でリストと訴求の当たりを探り、2〜3ヶ月目で勝ちパターンを固める。今回の自社事例も、受注に至るまでに2ヶ月半かかりました。新規開拓において、初月から受注が並ぶ設計はむしろ危険です。
よくあるご質問
Q1. 飲食店への新規開拓で、テレアポは今でも有効ですか?
有効です。飲食店は決裁者が店内にいる時間が明確で、電話が本人に直接届きやすい業態です。ただし架電時間帯を14〜16時などに合わせる設計が前提となります。
Q2. 適切なアポ率の目安はどのくらいですか?
商材と業界によりますが、飲食店向けの食材提案では架電アポ率10%台であれば十分に機能しているリストと判断できます。今回の自社事例は約16%でした。数字が悪くないのに受注が動かない場合は、リストの定義を疑うのが先です。
Q3. サンプルを送っても採用されないのはなぜですか?
多くの場合、味ではなく比較される土俵、価格の優位性、納品形態の3点が理由です。失注理由を一言一句記録し、次のターゲット選定に反映させることで改善できます。
Q4. リストはどこから作ればよいですか?
業種やエリアといった属性軸だけでは差がつきません。「その商材を扱った経験があるか」「今何が手に入らずに困っているか」という状態軸で切り、認定制度の加盟店一覧や過去のメニュー情報など、通常の検索では拾えない情報源を使うことをおすすめします。
Q5. 営業代行の費用感を教えてください。
ABM型・中長期の伴走支援で、月額50〜70万円程度が相場です。当社は固定報酬型を基本とし、準備期間は最短2週間、最低3ヶ月からのご契約でお受けしています。
飲食店の新規開拓ならスリーグッドへお任せください

飲食店への卸先開拓は、商品力の勝負に見えて、実際にはリスト設計の勝負です。今回、当社が自社商材で得た学びを改めて整理します。
- アポが取れることと、採用されることは別問題:架電アポ率16%でも、試食の先で止まることがあります。
- 失注理由は市場調査そのもの:「美味しいが使うには至らない」という一文が、勝てない土俵を教えてくれます。
- リストは属性ではなく状態で切る:その商材を扱った経験があり、供給を失っている層には、説得が要りません。
- 受注1件からヒントを取り、共通項を抜き、リスト化する:このサイクルを回す速度が、新規開拓の速度です。
私自身、水産卸の営業から料理人を経て営業代行の会社を立ち上げ、今また自社商材を持って飲食店に電話をかけています。断られ続けた2ヶ月半で確信したのは、根性でも架電量でもなく、誰に届けるかを設計し直す作業にこそ、成果の再現性があるということでした。
営業代行は、外注して終わりのサービスではありません。自社の勝ち筋を、外部の視点と実行力で一緒に見つけにいく経営判断です。飲食店への卸先開拓、あるいはHR・広告・自治体領域での新規開拓でお困りでしたら、まずは現状のリストを見せていただくところからご相談ください。

