「今の取引先だけでは、これ以上売上が伸びない」「新しい業界に売りたいが、どこから当たればいいのか分からない」「展示会に出てみたが、反応がよかったのかどうかも判断できない」。新しい市場への販路開拓について、経営者や事業責任者の方からこうしたご相談をいただきます。
新市場開拓は、商品をつくり直す話ではありません。今の商品やサービスを、これまでと違う相手に届ける取り組みです。商品はすでにあるぶん、取りかかりやすく見えますが、今の顧客に通じている伝え方や売り方が、新しい相手にもそのまま通じるとは限りません。
先に結論をお伝えします。新市場開拓は、自社のどの強みを持っていくかを決め、候補の市場を2〜3に絞って電話で当てて比べ、2か月で続ける・変える・やめるを決める、という順で進めると判断が早くなります。始める前に、やめる条件まで決めておくのがポイントです。
本記事では、京都の営業代行会社スリーグッドが、200社以上の新規開拓と、自社事業の販路開拓で経験してきたことをもとに、新市場開拓の戦略の考え方と、具体的な進め方を解説します。

この記事の要点
- 新市場開拓は既存商品×新しい市場:商品は変えずに、売る相手を変える成長の方法です
- 方向は3つある:今の売り先を広げる、強みを軸に売り先を変える、新しい柱をつくる、のどれかを先に決めます
- 候補は2〜3に絞って比べる:電話で当てると、どの市場で話を聞いてもらえるかが短い期間で分かります
- やめる条件を先に決める:2か月で続ける・変える・やめるを判断すると、損失を小さくできます
新市場開拓とは?市場開拓戦略の考え方
新市場開拓とは、今ある商品やサービスを、これまで取引のなかった市場に売り込んでいく取り組みです。市場開拓、新規市場開拓とも呼ばれます。ここでいう市場は、地域、業界、企業の規模、用途などで分けた売り先のことです。関西で売れている商品を首都圏で売る、飲食店向けの商品をホテルや温浴施設に売る、中小企業向けのサービスを大手企業に売る、といったものが新市場開拓にあたります。
企業の成長の方向を、商品と市場の組み合わせで整理する考え方に、アンゾフの成長マトリクスがあります。アメリカの経営学者イゴール・アンゾフが示したもので、経営戦略の基本の枠組みとして使われています。新市場開拓は、このうち既存の商品を新しい市場に出す方向です。
| 今の市場 | 新しい市場 | |
|---|---|---|
| 今の商品 | 市場浸透(今の顧客に、もっと買ってもらう) | 新市場開拓(今の商品を、新しい売り先に届ける) |
| 新しい商品 | 新商品開発(今の顧客に、新しい商品を売る) | 多角化(新しい商品を、新しい売り先に売る) |
新市場開拓は、商品の開発費がかからないぶん、多角化より取りかかりやすい方向です。一方で、売る相手が変わると、決める人も、買う理由も、断られる理由も変わります。今の顧客で当たった伝え方をそのまま持っていくと、思ったほど反応がない、ということが起きやすくなります。
新市場開拓の3つの方向
新市場開拓といっても、どこまで遠い市場に出ていくかで、難しさが大きく変わります。最初に、自社がどの方向を目指すのかを決めておくと、候補の市場を選びやすくなります。
| 方向 | 内容 | 例 | 難しさ |
|---|---|---|---|
| 今の売り先を広げる | 同じ業界・同じ相手のまま、地域や規模を広げる | 関西の飲食店で売れている商品を首都圏の飲食店へ | 比較的低い。伝え方はほぼそのまま使える |
| 強みを軸に売り先を変える | 商品や技術はそのままに、業界や用途を変える | 飲食店向けの飲料を温浴施設やホテルへ | 中くらい。買う理由と決める人が変わる |
| 新しい柱をつくる | 今の事業とは別の市場に、新しい売上の柱を立てる | 店舗向けの事業から、法人向けの支援事業へ | 高い。知見も取引先もほぼゼロから |
多くの企業で取りかかりやすいのは、真ん中の、強みを軸に売り先を変える方向です。今の商品や技術という強みを持っていきながら、まだ競合の少ない売り先を探せるためです。地域を広げる進め方は「地方の企業が一都三県(首都圏)で新規開拓する方法」と「関西(大阪・京都・兵庫)の市場を新規開拓する方法」で解説しています。
新しい市場の候補の見つけ方
候補の市場は、思いつきで選ぶより、今ある手がかりから探す方が外れにくくなります。手がかりになるのは、すでに社内にある情報です。
今の顧客の中の例外から探す
今の顧客を業種や規模で並べてみると、主な顧客とは違う業界の会社が、少数混じっていることがあります。その会社がなぜ買ってくれたのかを聞くと、自社では気づいていなかった使われ方が見つかります。同じ使われ方をしそうな会社が多い市場は、有力な候補になります。
断り理由から探す
これまでの営業で断られた理由も手がかりになります。うちの規模には合わない、うちの業界では使わないといった断り理由が多い市場は、候補から外せます。反対に、今は予算がない、時期が合わないという理由が多い市場は、時期を変えれば話を聞いてもらえる可能性があります。
同じ困りごとを持つ別の業界から探す
商品が解決している困りごとに注目すると、業界は違っても同じ困りごとを抱える相手が見えてきます。人手が足りない、仕入れ先を変えたい、新しい制度に対応しなければならない、といった困りごとは、業界をまたいで起きています。困りごとが同じなら、伝え方の芯はそのまま使えます。
競合が少ない市場を探す
候補の中でも、同じような商品を売り込む会社がまだ少ない市場は、話を聞いてもらいやすくなります。誰もが同じ市場に集まると、相手のもとには似た提案が毎日届くようになります。少し離れた地域や業界に目を向けると、相手の数は少なくても、一社あたりで話を聞いてもらえる可能性は高くなります。
こうして挙げた候補の中から、決める人に届けやすく、反応を早く確かめられるものを2〜3選びます。
新市場開拓がうまくいかない理由
今の顧客向けの伝え方のまま当たっている
今の顧客に選ばれている理由が、新しい市場でも通じるとは限りません。飲食店では味や原価で選ばれていた商品も、温浴施設では売店の棚に置けるか、お客様が手に取りやすいかで判断されます。新しい市場では、相手がその商品を何に使い、何と比べるのかを聞き直すところから始める必要があります。
候補の市場を広く取りすぎている
新しい市場は、どこも可能性がありそうに見えます。候補を絞らずに全部に少しずつ当たると、どの市場で反応がよかったのかが分からなくなります。反対に、最初から一つに決め打ちすると、外れたときに次の候補がありません。比べられる数に絞ることが大切です。
やめる条件を決めずに始めている
新しい市場の取り組みは、まだ数字が出ていない段階では、続けるべきかどうかの判断が難しくなります。始めたあとにやめる条件を考えると、それまでにかけた時間や費用が惜しくなり、続けるか迷ったまま時間だけが過ぎていきます。続ける、変える、やめるの条件は、始める前に決めておくものです。
社内の営業が既存の顧客で手一杯
新市場開拓を、既存の顧客を担当している営業の片手間で進めようとすると、どうしても後回しになります。目の前の取引先の対応は今日の売上に直結しますが、新しい市場の取り組みは、まだ数字を生まないからです。新しい市場に使う時間は、既存の仕事とは分けて確保する必要があります。
新市場開拓の進め方
1. 持っていく強みを言葉にする
最初に、今の顧客がなぜ自社を選んでいるのかを言葉にします。商品の品質なのか、価格なのか、対応の早さなのか、取引の手間が少ないことなのか。ここが分かると、その強みが効きそうな別の市場を考えやすくなります。今の顧客に選ばれた理由と、断られた相手の断り理由を並べてみると、強みがよりはっきりします。
2. 候補の市場を2〜3に絞る
強みが効きそうな市場の候補を挙げ、2〜3に絞ります。候補ごとに、決める人は誰か、どの時期に決めるのか、今は何を使っていて何に困っていそうかを書き出します。新しい店を出した、採用を増やしている、新しい事業を始めた、といった企業の状態でも相手を絞ると、話を聞いてもらえる相手に早くたどり着けます。
| 候補ごとに確かめること | 確かめる内容の例 |
|---|---|
| 決める人 | 部署の担当者か、経営層か、店舗の店主か |
| 決める時期 | 予算を組む時期、メニューや品揃えを見直す時期 |
| 今使っているもの | 今の仕入れ先や外注先、代わりに使っている方法 |
| 困っていそうなこと | 人手、費用、仕入れ先の変更、新しい制度への対応 |
| 相手の状態 | 新しく店を出した、事業を始めた、採用を増やしている |
3. 電話で当てて比べる
候補の市場ごとにリストを作り、同じ時期に電話で当てて比べます。電話なら、話を聞いてもらえたか、どんな理由で断られたかが、その日のうちに分かります。展示会や広告と違い、候補ごとの反応を同じ条件で比べやすいのが利点です。見る数字は、担当者につながった割合と、つながった相手から商談になった割合を分けて記録します。つながらないのか、話してもらえないのかで、直すべきところが変わるためです。手法ごとの特徴は「法人営業の新規開拓手法を比較」でまとめています。
4. 2か月で、続ける・変える・やめるを決める
2か月たったところで、候補ごとの結果を見て判断します。判断の目安は、始める前に決めておきます。
| 判断 | 目安 |
|---|---|
| 続ける(広げる) | 話を聞いてもらえる割合が高く、商談の中身もよい。断り理由が時期や予算など、待てば変わるものが中心 |
| 変える | つながる割合は低いが、話せた相手の反応はよい。相手の部署、時間帯、伝え方を変えて試す価値がある |
| やめる | 話せた相手からも、そもそも必要ないという断りが続く。代わりに使っているもので十分足りている |
POINT:やめる判断も成果です。2か月で、この市場には今は需要がないと分かれば、次の候補に時間を回せます。いちばん避けたいのは、手応えも撤退の理由もないまま、何年も同じ市場に費用をかけ続けることです。
5. 当たった条件を広げる
反応のよかった市場が見つかったら、どの状態の、どの部署の相手に、どんな伝え方で当たったのかを条件として残し、同じ条件の相手に広げていきます。電話の量を増やすだけでなく、展示会、メディアPR、Web集客など、その市場に合ったほかの手法を足していくのもこの段階です。2か月で確かめる進め方は「テスト稼働(営業PoC)」で、当たった条件を広げる進め方は「拡大稼働」で紹介しています。
事例:新しい売り先に届けた例
新しい市場に販路を広げた例を、公開している範囲でご紹介します。
自社の養殖魚を飲食店に広げた(SAKANA DIRECT)
スリーグッドは、養殖魚の生産者と飲食店をつなぐ卸の事業SAKANA DIRECTを自社で運営しています。扱っている魚は、飲食店の方にとってなじみの薄い魚種で、魚の説明から入っても、関心を持ってもらうのは簡単ではありません。そこで、その食材を過去に扱っていて、仕入れ先を失った店に相手を絞ってリストを作り直しました。208社に電話して、有効商談は33件でした。新しい市場では、商品の説明より、相手が今その商品を必要とする理由があるかで結果が変わります。
クラフトコーラを温浴施設に広げた(UMAMI COLA株式会社)
麹甘酒を使ったクラフトコーラを製造・販売するUMAMI COLA株式会社様では、温浴施設などの取扱店を増やすテレアポと並行して、メディアへのアプローチを支援しました。サウナや温泉、健康志向といった切り口で記者にアプローチし、3か月の稼働で産経新聞 東京版の1面に掲載されています。電話でも掲載の実績を伝えることで、新しい市場の相手に話を聞いてもらいやすくなりました。
店舗の運営から、営業代行へ(スリーグッド)
スリーグッド自身も、新しい柱をつくる方向の転換を経験しています。民泊の運営をしていましたが、コロナで売上が9割減り、もともと得意だった営業を軸に、営業代行という新しい市場に出ました。持っていった強みは、自分たちで電話をかけて取引先を増やしてきた経験です。新しい柱をつくる方向は難しさも大きいですが、持っていく強みがはっきりしていれば、ゼロからの立ち上げにはなりません。
新市場開拓を外部に任せるときの考え方
新市場開拓は、社内の営業担当が既存の顧客を見ながら進めるには負担が大きい取り組みです。最初の2か月の確認だけを外部に任せ、反応のよかった市場と伝え方が分かってから社内の体制や採用を決める、という使い方もできます。新しい市場の営業担当を採用する前に確かめておくと、採用する人の条件も決めやすくなります。
スリーグッドでは、候補の市場ごとのリスト作成、架電、毎週の定例、レポート作成までを担当します。終了時には、使ったリスト、断り理由のデータ、トークをお渡しします。料金はご依頼の工数によるため、初回のご相談でお見積もりします。最低契約期間は2か月で、ご契約日から標準14日で稼働を始めます。料金の考え方は「固定報酬型の営業代行」で、新規事業の場合の進め方は「新規事業の営業代行とは?」でご覧いただけます。
よくある質問
- 新市場開拓と新規開拓は何が違いますか
-
新規開拓は、取引のない相手と新しく取引を始めること全般を指します。新市場開拓は、その中でも、これまで売っていなかった地域、業界、規模、用途の市場に出ていく取り組みです。同じ市場の中で取引先を増やすことは、新市場開拓には含まれません。
- 新市場開拓の候補は、いくつに絞ればよいですか
-
2〜3が目安です。1つに決め打ちすると外れたときに次がなく、多すぎるとどの市場で反応がよかったのかが分からなくなります。
- 新市場開拓の成果は、どのくらいの期間で判断できますか
-
電話で当てる場合、2か月で、どの市場で話を聞いてもらえるかの判断はできます。受注まで含めると、商材の検討期間によってさらに時間がかかります。
- 新しい市場でも、今の営業資料は使えますか
-
そのまま使えることは少ないです。新しい市場の相手は、別のものと比べて判断します。電話で聞いた比較対象や断り理由をもとに、資料の最初のページを書き換えるところから始めるのがおすすめです。
- 新市場開拓に展示会は向いていますか
-
候補の市場が決まり、その業界の展示会があるなら有効です。候補がまだ絞れていない段階では、出展料に対して得られる情報が限られるため、先に電話で反応を比べてから出展先を決める方が無駄が少なくなります。
- 新しい市場の営業担当は、採用した方がよいですか
-
反応のよい市場と伝え方が分かってから採用する方が、採用する人の条件を決めやすく、育成もしやすくなります。最初の確認の期間だけ外部に任せる使い方もできます。
代表・田中からひとこと
私たちも、民泊の売上が9割減ったところから、営業代行という新しい市場に出ました。そのときに助けになったのは、新しい事業の計画よりも、自分たちは何が得意なのか、どんな相手なら話を聞いてくれるのかを、実際に電話をかけながら確かめたことでした。
新市場開拓は、正解の市場を最初から当てる取り組みではありません。候補を絞って当ててみて、反応を見て、続けるか変えるかやめるかを決める。その回し方さえ決めておけば、外れることは怖くありません。どの市場から当たるか迷っている方は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
新市場開拓を進めるときのポイントをまとめます。
- 今の顧客に選ばれている理由を言葉にし、その強みが効きそうな市場を候補にする
- 候補の市場を2〜3に絞り、電話で当てて、つながる割合と商談になる割合を比べる
- 始める前にやめる条件を決め、2か月で続ける・変える・やめるを判断する
新しい市場への販路開拓をお考えの方は、商材と、今の顧客、候補として考えている市場をお聞かせください。どの市場から、どの相手に当たるのがよいかをご提案します。
